東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)46号 判決
1 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告の主張する本件審決の取消事由の存否について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によれば、本願意匠は、意匠に係る物品を「煮炊具用蓋」とするものであつて、その基本構成は、円形の蓋本体の外周縁に環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に摘みを設けたものであるが、これら構成各部の具体的態様をみると、蓋本体は、全体が透明で、円板を略一定の曲率をもつた凸弧面状に形成し、その高さを直径の略<省略>としたものであり、環状帯は、不透明で、蓋本体と対比すると、縦幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅を蓋本体の直径と対比すると略一対五七の細幅な縦断面C状の環状であり、摘みは、不透明で、周側面を僅かに膨出し、上面を浅い凹弧面状とした逆円錐台状に形成し、その高さを上径の略一・三倍としたもので、摘みの高さと蓋本体の高さと環状帯の縦幅の比率は略四対三対一であることが認められる。
これに対し、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用意匠は、合成樹脂製鍋蓋に関するものであつて、その基本構成は、円形の蓋本体の外周縁に環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に摘みを設けたものであるが、蓋本体(透明蓋主体3)は、全体が透明で、円板を中心から半径の略<省略>の範囲の中央部分を略水平とし、その外側部分を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状に形成し、その高さを直径の略<省略>としたものであり、環状帯(周骨縁体5)は、不透明で、蓋本体の曲折垂下した周縁部を嵌着固定させており、蓋本体と対比すると、縦幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅を蓋本体の直径と対比すると略一対二〇の太幅の縦断面U状の環状であり、摘み(摘み8)は、不透明で、単純な逆円錐台状に形成し、その高さを上径の略〇・六倍としたもので、摘みの高さと蓋本体の高さと環状帯の縦幅の比率は略三対四対三であることが認められる。
被告は、本願意匠及び引用意匠の形態については、それぞれ蓋本体に環状帯を含めて認定すべきであり、その場合の構成各部の比は、本件審決認定のとおりであると主張する。
しかしながら、前掲甲第二号証の一ないし三及び第三号証によれば、両意匠は、ともに蓋本体と環状帯と摘みとにより構成されているものであつて、当事者間に争いのない請求の原因2の事実からすれば、本件審決も両意匠の基本構成を「蓋本体の外周縁に環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に摘みを設けたもの」と認定し、両意匠の構成各部を蓋本体と環状帯と摘みとに分け、それぞれの態様を検討していることが明らか(なお、この場合に、本件審決は、引用意匠では蓋本体のうち周縁部の曲折垂下している部分は環状帯によつて外観上視認されないとして、引用意匠全体の基本構成は右曲折垂下部分を環状帯として把握し、本願意匠についても蓋本体の外周縁に環状帯を捲回しているが、本願意匠全体の基本構成はこの外周縁部分を環状帯として把握していることが、各明らか)であり、それにも拘らず、本件審決が蓋本体の高さと直径、環状帯の縦幅と横幅とを対比するに当たり、蓋本体に環状帯を含めて計算しているのは、誤りであるといわなければならない。
(二) そこで、本願意匠と引用意匠とを対比すると、両意匠は意匠に係る物品が同一であり、かつその基本構成ならびに蓋本体のみを透明とし、その高さを直径の略<省略>とした点及び摘みの形状を逆円錐台状に形成した点において一致しているが、<1> 蓋本体の形状は、本願意匠では、円板をほぼ一定の曲率をもつた凸弧面状に形成しているのに対し、引用意匠では、円板を中心から半径の略<省略>の範囲の中央部分を略水平とし、その外側部分を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状に形成した点、<2> 環状帯は、本願意匠では、蓋本体と対比して縦幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅を蓋本体の直径と対比すると略一対五七の細幅な縦断面C状の環状であるのに対し、引用意匠では、蓋本体と対比して縦幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅は蓋本体の高さの略<省略>、横幅を蓋本体の直径と対比すると略一対二〇の太幅の縦断面U状の環状である点、<3> 逆円錐台状の摘みは、本願意匠では、周側面を僅かに膨出し、上面を浅い凹弧面状とし、その高さを上径の略一・三倍としたのに対し、引用意匠では、単純な逆円錐台状で、その高さを上径の略〇・六倍とした点、<4> 摘みの高さと蓋本体の高さと環状帯の縦幅の比率は、本願意匠では、略四対三対一であるのに対し、引用意匠では、略三対四対三である点において、それぞれ差異があるものと認められる。
ところで、意匠に係る物品が、本願意匠では煮炊具用蓋であり、引用意匠では鍋蓋であることに鑑みると、看者は、その使用時においては上方又は斜め上方から観察することが多いが、不使用時に調理用具として収納して置く場合には、上方又は斜め上方から観察するほか正面から観察することも少なくないといわなければならないところ、両意匠を上方又は斜め上方から観察した場合、前記差異点<2>に基づき、本願意匠は、環状帯が細幅な環状に形成され、蓋本体の直径と環状帯の横幅との比率が略五七対一であるため、看者には、引用意匠に比べて、細幅の環状帯により蓋本体の透明部分が強調され、全体としてすつきりした印象を与えるものであり、また、両意匠を正面から観察した場合でも、前記差異点<1>、<3>及び<4>に基づき、本願意匠は、円板を略一定の曲率をもつた凸弧面状に形成し、摘みも高さを上径の略一・三倍とし、摘みの高さと蓋本体の高さと環状帯の縦幅との比率が略四対三対一であるため、看者には、引用意匠に比べて、摘みと蓋本体と環状帯とがほどよく調和したものと受取られ、清楚な印象を与えるものと認められる。
そして、煮炊具用蓋ないしは鍋蓋において、本願意匠及び引用意匠のように、円板状の蓋本体とその中央部に設けた摘みと蓋本体の外周縁に捲回した環状帯とを基本構成として共通にする場合に、この蓋本体と環状帯と摘みとの具体的態様に前記の差異点があつて、そのため看者が両意匠を観察すると、前記のとおり、両意匠から受ける美感が異なるものである以上、両意匠は、看者の注意を引く主要部において相違し、類似しないものと認めるのが相当である。
(三) 以上のとおりであるから、両意匠の差異点は意匠の主要部における共通性を凌駕して両意匠を別異のものと認識させるほどのものと認められないとした本件審決の判断は誤りであり、かつ、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、本件審決は違法として取消されるべきである。
3 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当として認容する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第二 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五一年二月六日、意匠に係る物品を「煮炊具用蓋」とし、昭和五一年意匠登録願第一九六六号(意匠登録第四八二八七二号)意匠を本意匠とする意匠(以下「本願意匠」という。)について類似意匠登録出願(昭和五一年意匠登録願第三六〇一号)をしたところ、昭和五四年三月三〇日拒絶査定があつたので、同年五月二八日審判を請求し、昭和五四年審判第五八一五号事件として審理されたが、昭和五六年七月二九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年八月一九日に原告に送達された。そこで、原告は、同年九月一六日東京高等裁判所に対し前記審決の取消請求訴訟を提起し、昭和五六年(行ケ)第二三三号事件として審理された結果、「特許庁が昭和五四年審判第五八一五号事件について昭和五六年七月二九日にした審決を取消す。」との判決があり、更に前記審判事件として審理されたところ、昭和五八年一二月一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は昭和五九年一月一八日原告に送達された。
2 本件審決の理由
(一) 本願意匠の形態は、願書の記載ならびに願書に添付された別紙(一)記載の図面及び図面代用写真に現されたものから、次のとおりのものと認める。
全体の基本構成は、蓋本体の外周縁に環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に摘みを設けたものであつて、その基本態様は、蓋本体が円板をゆるやかな凸弧面状とし、環状帯は細幅の環状として、摘みを逆円錐台状とし、蓋本体のみを透明としたものである。構成各部の態様を具体的にみると、蓋本体は、円板を一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状に形成し、高さを直径の略<省略>としたものであり、環状帯は、縦幅を蓋本体の高さの略<省略>とし、横幅を略<省略>とした縦断面C状の環であり、摘みは、逆円錐台状の高さを上径の略一・三とし、その周側面を僅かに膨出して上面を凹弧面状に浅く窪めたものである。
(二) ところで、昭和四〇年二月二二日特許出願公告、昭和四〇―三三九一号特許公報の明細書及び同添付第1図、第3図(別紙(二)参照)に記載された「鍋蓋」(以下「引用意匠」という。)の形態は、前記記載によつて、次のとおりのものと認める。
全体の基本構成は、蓋本体の外周縁に環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に摘みを設けたものであつて、その基本態様は、蓋本体が円板をゆるやかな凸弧面状とし、環状帯は太幅の環状として、摘みを逆円錐台状とし、蓋本体のみを透明としたものである。構成各部の態様を具体的にみると、蓋本体は、円板を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状とし、更に、その周縁部を曲折垂下して形成し、高さを直径の略<省略>としたものであり、環状帯は、縦幅を蓋本体の高さの略<省略>とし、横幅を略<省略>とした縦断面U状の環状とし、その外側上角部を凸弧面状としたものであり、摘みは、逆円錐台状の高さを上径の略〇・六としたものである。
(三) そこで、本願意匠と引用意匠とを対比すると、両者は、意匠に係る物品を同一とし、形態においても基本構成が一致しており、構成各部の態様も蓋本体が透明の円板をゆるやかな凸弧面状とし、その外周縁に縦幅が横幅よりも大きい環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に逆円錐台状の摘みを設けた点で共通している。他方、両意匠は、蓋本体において、本願意匠は全体が一定の曲率をもつて形成しているのに対し、引用意匠が周縁部を曲折垂下している点、また、環状帯の断面形状が本願意匠ではC状であるのに対し、引用意匠はU状としている点、及び蓋本体と環状帯との比において、本願意匠は細幅であるのに対し、引用意匠は太幅である点、更に、摘みを本願意匠が引用意匠に比してやや縦長で、周側面を僅かに膨出し、上面を浅く窪めている点でそれぞれ差異がある。
前記の一致点、共通点及び差異点について考察すると、一致点及び共通点は看者の注意を引くところであるから、両意匠の主要部と認められる。これに対し、蓋本体の差異は、周縁の垂下部の有無であるが、引用意匠は、この部分に環状帯を捲回しており、外観上視認されないのに対し、両者は、上面部を一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状としている点で看者に共通した印象を惹起させるから、部分的な差異にすぎない。また、環状帯の差異は、断面形状を比較したときに見られるものであつて、これを環状帯全体として観察した場合、引用意匠の外側上角部が凸弧面状であるため、本願意匠の外側の形状と同様の印象を与えるから、類否判断に影響を及ぼすものではなく、蓋本体と環状帯との比もさほど顕著な差異とは認められない。更に、摘みの差異は、いずれも逆円錐台状としている点で共通しており、特に目立つほどのものではないから、部分的な微差にすぎない。
(四) 以上のとおりであつて、一致点、共通点及び差異点を総合して本願意匠と引用意匠とを全体として観察すると、差異点は意匠の主要部における共通性を凌駕して両意匠を別異のものと認識させるほどのものと認められないから、両意匠は相互に類似しているというほかない。
したがつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、登録を受けることができない。
3 本件審決の取消事由
本件審決は、本願意匠及び引用意匠の構成の認定を誤り、両意匠間の差異を看過し、ひいて両意匠の類否の判断を誤つたものであつて、違法であるから取消されるべきである。
すなわち、意匠は視覚を通じて認識される物品の具体的な形態に関するものであるから、意匠の形態を認定するにあたつては、その形態を具体的に定めなければならない。また、意匠は物品の外観に関するものであつて全体観察により認識されるべきものであるから、意匠の形態を認定するにあたつては、物品を構成する構成各部の形態の相互関係をも考慮して具体的に認定しなければならない。更に、意匠は前記のように視覚を通じて認識されるものであるから、意匠の形態を認定するにあたつては、物品の外部から視認できる部分の形態に基づいてしなければならない。以上の諸点を考慮すると、本件審決の認定判断には、次の誤りがある。
(一) 本願意匠及び引用意匠の構成について
(1) 本件審決は、本願意匠の蓋本体について、高さを直径の略<省略>と認定しているが、別紙(一)記載の平面図及び正面図により、蓋本体の外部から視認できる寸法である高さ六・二と直径五七・五とを対比して、略<省略>とすべきである。
また、本件審決は、本願意匠の環状帯について、蓋本体と対比して、縦幅を蓋本体の高さの略<省略>としているが、別紙(一)記載の平面図及び正面図により、蓋本体の外部から視認できる寸法である蓋本体の高さ六・二と環状帯の縦幅二とを対比して略<省略>とすべきであり、横幅を蓋本体の高さの略<省略>と認定しているが、同様に外部から視認できる寸法である蓋本体の高さ六・二と環状帯の横幅一とを対比して略<省略>とすべきである。
更に、本件審決は、本願意匠の構成各部の形態の相互関係については、前記の「環状帯の形態と蓋本体の形態(高さ)との相互関係」のみを認定しているが、このような相互関係の認定のみでは不十分であり、別紙(一)の記載に基づき次の点が加えられるべきである。すなわち、
(イ) 正面から見た外部から視認できる摘みの高さ、蓋本体の高さ及び環状帯の縦幅の比率が略四対三対一であること。
(ロ) 上面から見た外部から視認できる蓋本体の直径と環状帯の横幅の比率が略五七対一であること。
(2) 本件審決は、引用意匠の蓋本体について、円板を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状とし、と認定しているが、中心から半径の略<省略>の範囲の中央部分が略水平で、それよりも外側の部分を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状とし、とすべきである。
また、本件審決は、蓋本体の高さを直径の略<省略>と認定しているが、引用意匠における環状帯(周骨縁体5)は、不透明な合成樹脂製であるから、別紙(二)記載の第1図により、外部から視認できる蓋本体の寸法である高さ八と直径七七とを対比して略<省略>とすべきである。
次に、本件審決は、引用意匠の環状帯について、蓋本体と対比して、縦幅を蓋本体の高さの略<省略>と認定しているが、別紙(二)記載の第1図により、外部から視認できる寸法である蓋本体の高さ八と環状帯の縦幅六とを対比して略<省略>とすべきであり、また横幅を蓋本体の高さの略<省略>と認定しているが、同様に外部から視認できる寸法である蓋本体の高さ八と環状帯の横幅四とを対比して略<省略>とすべきである。
更に、本件審決は、引用意匠の構成各部の形態の相互関係については、前記の「環状帯の形態と蓋本体の形態(高さ)との相互関係」のみを認定しているが、このような相互関係の認定のみでは不十分であり、別紙(二)の記載に基づき次の点が加えられるべきである。すなわち、
(イ) 正面から見た外部から視認できる摘みの高さ、蓋本体の高さ及び環状帯の縦幅の比率が略三対四対三であること。
(ロ) 上面から見た多部から視認できる蓋本体の直径と環状帯の横幅の比率が略二〇対一であること。
(二) 両意匠の一致点、共通点及び差異点について
(1) 本願意匠の蓋本体は、全体が一定の曲率をもつた凸弧面状に形成され、あたかも球面の一部を切り取つたような突出した形状になつているのに対し、引用意匠の蓋本体は、中心から半径の略<省略>の範囲の中央部分が略水平で、それよりも外側の部分を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状となつており、あたかも球面の中央部を平らに押しつぶしたような形状であり、全体として平坦な形状となつている点に差異がある。
したがつて、本件審決が両意匠は、「蓋本体が透明の円板をゆるやかな凸弧面状とし」た点で共通しているとしたのは誤りである。
(2) 本願意匠と引用意匠とを対比すると、本件審決認定の差異点があることは争わないが、両意匠の差異点には、審決認定のほか、本願意匠については、前記(一)(1)の(イ)及び(ロ)の点が、引用意匠については、前記(一)(2)の(イ)及び(ロ)の点がそれぞれ加えられるべきであり、本件審決には右差異を看過した誤りがある。
(三) 両意匠の類否判断について
(1) 本願意匠と引用意匠とは、前記(二)(1)のとおり相違しているので、看者に与える印象が異なる。すなわち、引用意匠の蓋本体は、中心から半径の略<省略>の範囲の中央部分が略水平で、それよりも外側の部分が略一定の曲率をもつゆるやかな凸弧面状であるから、あたかも球面の中央部を平らに押しつぶしたような形状であつて、全体として平坦な形状でありきわめてありふれた平凡な煮炊器蓋の印象しか与えないのに対し、本願意匠の蓋本体は、全体が一定の曲率をもつた凸弧面状に形成され、あたかも球面の一部を切り取つたような突出した形状であつて、形の整つたスマートな印象を与える。そして、本願意匠のこの球面形状は、看者の注意を引くところであるから、本願意匠の主要部と認められる。
(2) 本願意匠と引用意匠とは、前記(二)(2)のとおり相違しているので、看者に与える印象が異なる。すなわち、
(イ) 正面から見た外部から視認できる摘みの高さ、蓋本体の高さ及び環状帯の縦幅の比率は、引用意匠が略三対四対三となつているのに対し、本願意匠は略四対三対一となつている。このように引用意匠は、外部から視認できる摘みの高さ、蓋本体の高さ及び環状帯の縦幅の寸法差が小さいため、正面から見ると、あたかも摘みと蓋本体と環状帯との三つ重ねのように見え、看者に重圧的な印象を与えるのに対し、本願意匠は環状帯の縦幅が摘みの高さ及び蓋本体の高さに対して小さい寸法であるため、正面から見ると、あたかも摘みと蓋本体との二つ重ねのように見え、看者に清楚で軽快な印象を与える。そして、本願意匠のこのような環状帯の縦幅の形態は、看者の注意を引くところであるから、本願意匠の主要部と認められる。
(ロ) 上面から見た外部から視認できる蓋本体の直径と環状帯の横幅との比率は、引用意匠が略二〇対一となつているのに対し、本願意匠は略五七対一となつている。このように、引用意匠は、蓋本体の直径に対する環状帯の横幅の比率が大きく、本願意匠に比べて略三倍であるため、上面から見ると、あたかも縁の太いセルロイド製フレームの眼鏡のような鈍重な印象を看者に与えるのに対し、本願意匠は、蓋本体の直径に対する環状帯の横幅の比率が小さいため、上面から見ると、あたかも縁のきわめて細い金属フレームの眼鏡のような清楚で軽快な印象を看者に与える。そして、本願意匠のこのような環状帯の横幅の形態は、看者の注意を引くところであるから、本願意匠の主要部と認められる。
(3) このように、本願意匠と引用意匠とを全体として観察すると、両意匠には前記(1)及び(2)のような差異があり、このため本願意匠は清楚にして軽快な印象を看者に与えるのに対し、引用意匠は重圧的で鈍重な印象を看者に与えるから、本願意匠は引用意匠とは明らかに異なつた美感を看者に与えるものである。
したがつて、本願意匠と引用意匠とは、全体として観察した場合、美感が大きく相違し、本願意匠は引用意匠に類似する意匠ということはできないから、両意匠は相互に類似しているというほかないとした本件審決の判断は誤りである。
第三 被告の主張及び答弁
1 請求の原因1及び2の事実は認める。
2 同3の本件審決の取消事由は争う。
本件審決の判断は正当であつて、本件審決には原告主張のような違法の点はない。
(一) 本願意匠及び引用意匠の構成について
(1) 本願意匠の蓋本体の高さと直径の比及び蓋本体の高さと環状帯の縦幅又は横幅の比が、別紙(一)記載の平面図及び正面図により、蓋本体に環状帯を含めないで計算すると、原告主張のとおりであることは認める。
しかしながら、本願意匠の形態については、蓋本体に環状帯を含めて認定すべきであるから、蓋本体の高さは直径の略<省略>、環状帯の縦幅は蓋本体の高さの略<省略>、環状帯の横幅は蓋本体の高さの略<省略>であつて、この点についての本件審決の認定に誤りはない。
また、原告は、本件審決は、本願意匠の構成各部の形態の相互関係について、「環状帯の形態と蓋本体の形態(高さ)との相互関係」のみを認定しているが、このような相互関係の認定のみでは不十分であつて、本件審決の取消事由(一)(1)(イ)及び(ロ)の点が加えられるべきであると主張するが、(イ)及び(ロ)の点における構成各部の比率について、各々対比しなくとも、本願意匠の形態を認定することができるから、原告の右主張は理由がない。
(2) 引用意匠は、本件審決認定のとおり、「円板を略一定の曲率をもつてゆるやかな凸弧面状としたもの」であつて、引用意匠の蓋本体の中央部分が原告主張のような略水平と認定するほど平板なものではない。
また、引用意匠の蓋本体の高さと直径の比及び蓋本体の高さと環状帯の縦幅又は横幅の比が、別紙(二)記載の第1図により、蓋本体に環状帯を含めないで計算すると、原告主張のとおりであることは認める。
しかしながら、引用意匠の形態についても、蓋本体に環状帯を含めて認定すべきであるから、蓋本体の高さは直径の略<省略>、環状帯の縦幅は蓋本体の高さの略<省略>、環状帯の横幅は蓋本体の高さの略<省略>であつて、この点についての本件審決の認定に誤りはない。
更に、原告は、引用意匠についても、本件審決が「環状帯と蓋本体の形態(高さ)との相互関係」のみを認定しているのは不十分であり、本件審決の取消事由(一)(2)(イ)及び(ロ)の点が加えられるべきであると主張するが、(イ)及び(ロ)の点における構成各部の比率について、各々対比しなくとも、引用意匠の形態を認定することができるから、原告の右主張は理由がない。
(二) 両意匠の一致点、共通点及び差異点について
(1) 本願意匠と引用意匠とは、全体として略一定の曲率をもつゆるやかな凸弧面状に形成した点で一致しており、引用意匠の中央部分の曲率の差異は蓋本体の限られた部位にすぎず、両意匠がともに透明であることを勘案すれば、その差異は微弱なものといわざるをえない。
(2) 本願意匠と引用意匠との差異点は、本件審決認定のとおりであり、本件審決は、原告主張の点も考察して両意匠の類否を判断しており、判断に遺漏はない。
(三) 両意匠の類否判断について
本願意匠と引用意匠とは、基本構成が一致しており、具体的態様も透明の円板をゆるやかな凸弧面状とし、その外周に縦幅が横幅よりも大きい環状帯を捲回し、蓋本体の中心部に逆円錐台状の摘みを設けた点で共通しており、特に蓋本体のみを透明とした点が顕著であつて、この点が看者に共通した印象を与えるから、蓋本体の形態及び構成各部の比率の相互関係に差異があつても、この程度の差異では、未だ全体の基調を変えて別異の印象を看者に与えるものではない。
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても基本構成が一致しており、具体的態様も共通点が認められるから、全体として観察した場合には相互に類似するものといわざるをえない。
〔編註その二〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙
(一)
<省略>
<省略>
(二)
<省略>